経済大国日本の貧困層「裏の顔」を描いたマンガ「健康で文化的な最低限度の生活」
2015年においてもGDPが世界第2位の国「日本」。
しかし、その経済状況は単純に良好とは言えません。
実は「国民一人当たりの名目GDP」では第13位までランクダウンします。
かつて経済大国と言われた「日本」でも、貧困は確実に増加しているのです。
今回はそんな状況を表したマンガ「健康で文化的な最低限度の生活」をご紹介します。
あらすじ
大学を卒業した「義経えみる」は、新卒で東京都東区役所の福祉事務所へ配属された。
先輩ケースワーカーである「半田」に資料室へ案内されると、実務を担当させられる。
ついこの間まで「学生」だった「義経えみる」は、そこで社会の「貧困層」の人々と出会うことになる。
病気で働けなくなった人、精神を病んだ人、虐待を受けて逃げ出した人など、さまざまな理由で「貧困」に陥った人々。
そんな人たちと接し、向き合うことで、「義経えみる」や同期の友人達は苦悩し、奮闘する。
登場人物
1.義経えみる
本作品の女性主人公。大学卒業後に東京都東区役所に就職。
物語は彼女が生活保護を取り扱う福祉事務所に配属されたところから始まる。
性格はおっとりしていて優しい。
しかし、裏を返すと優柔不断な面もあり、つい頼みを安請け合いして苦労する事もある。
2.半田
「義経えみる」の先輩であり、無精ひげと少し乱れた髪形。
見た目は悪いが、ケースワーカーとしては非常に優秀であり、後輩の面倒見も良い。
常に「義経えみる」のサポートを行い、適切に指導する。
可能な限り「生活保護受給者」側から物事を考え行動できる、理想のケースワーカー。
3.京極
福祉事務所係長であり、「義経えみる」と「半田」の直属の上司。
生活保護受給者に対する対応よりも、区の財政状況を考慮して部下たちに生活保護受給者達の自立や不正受給防止対策を厳しく指導している。
しかし、根は悪い人ではなく「話せばわかる人」
考察
タイトル「健康で文化的な最低限度の生活」とは、日本国憲法第25条第1項の条文「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という文言からです。
例えばアメリカなどでは食費に相当するものはチケット制度といったように、各国の「生活保護」制度は様々です。
その為、このマンガを読むときには、国籍や身を置いている国によって、少し制度や意識に相違があるかもしれません。
物語はフィクションですが、しっかりとした取材を行い、日本の「生活保護」の制度自体に対する説明や利用時の制約など、漫画でわかりやすく解説してくれます。
公務員として、生活保護を受けに来る人々を「評価」「選定」する事に苦悩する主人公や仲間達を描きながら、「貧困者」側の視点からの葛藤も描きます。
中には「自業自得」というケースもあれば、生活保護を受けるべきケースの人が体面やプライドから受け取りを拒否するなど、「貧困者」様々な「事情」がある事をうまく描いてドラマを展開させて行きます。
作者の「柏木ハルコ」は女性漫画家でありながら、代表作「いぬ」という女性視点からの性を描いた作品が有名です。
その他にも大きく性を含んだ青春群像劇など、独特の作風で人気を博した人物でもあります。
そんな漫画家が取り上げた最新作のテーマが「生活保護」だという事と、今まで存在しなかったジャンル、しかも日本社会の暗部とも言える部分へドキュメンタリー的な作風で切り込んだのが話題になりました。
日本での単行本は4巻で、現在も雑誌にて連載中です。
この作品は、日本が不景気である「いま」に発表されました。
その意図は、「生活保護受給者」への偏見や差別をなくす為なのか。
だとしても、生活保護を受け取る側はこの作品を見てどう感じているのか。
自分はマンガに登場する「貧困者」とは違う、自分はそうではないから「幸せ」だ。
そうした意識を持つことは人である以上「悪い事」とは言えません。
しかし、少しでも多くの人がこれを読んで、「貧困」と「生活保護制度」に理解を深めてほしいものです。