奈良公園 ― 世界で唯一、鹿と人間が共存するエリア
奇妙な共存関係
奈良県奈良市。東大寺、春日大社など、国宝級の文化財が建ち並ぶ奈良公園を中心としたエリアは、鹿と人間が共存関係にある場所である。林の中だけではなく、寺・神社の境内にまで、天然記念物に登録されている鹿が約1200頭も生息している。なお、驚くべきことに、ここにいる鹿達は飼育されているわけではない。全て野生動物なのだ。
古くから神の使いとして大切に保護され(かつては鹿を殺した者は死刑になったという。現在でも鹿を傷つけると罰則の対象になる)、明治~戦時中の一時には、人間の食料として狩られるなどしてその数を減らしたものの、その後は頭数も回復し、現在にまで至っている。
奈良でしか見られない、なんとも風流な眺めである。
鹿飛び出し注意
この道路標識は「鹿の飛び出し注意」の標識であるが、いかに周辺に鹿が多いのか垣間見ることが出来るものの一つだ。道路に飛び出した鹿が自動車と接触するという痛ましい事故が年間数十件~100件以上発生していて、問題視されている。
鹿とのふれあい
鹿達は皆人間に慣れていて、簡単に触れることができる。鹿は元来警戒心が強い動物であるが、奈良公園の鹿は保護され、共生する中で人を恐れなくなったといわれる。彼らは人懐こく近づいてきて、おそらく何か食べられる物を探しているのだろうが、観光客の鞄に鼻を突っ込んだりする。
しかし、彼らはあくまで野生動物であるため、突然蹴りつけてきたり突進してきたりする可能性があることにも留意せねばならない。また、5-7月・9-11月の繁殖期には気性が荒くなるため、不用意に近づかない方が良い。
餌付け
売店では鹿の餌である「鹿せんべい」が150円で販売されている。なんとこの鹿せんべい、17世紀から販売されている、由緒正しい、歴史あるせんべいなのだ。
鹿達はこのせんべいが大好きだ。人間がこれを持っているのを見つけると、「寄越せ」と言わんばかりに歩み寄ってくる。彼らの観察眼たるや中々のもので、うっかり鹿がたくさんいる所で鹿せんべいの存在に気付かれると、こちらのことなどお構いなしに大挙して押し寄せてくるため、追い剥ぎにあった気分になる。
餌付けは群れから離れた場所ですることを筆者はおすすめする。
尚、せんべいには味付けはされていないので、人間が食べてもあまり美味しくはない。