漫画「3月のライオン」 ― 将棋と呼ばれる盤上のゲームと人生模様を描くマンガ
「チェス」や「囲碁」といった戦略を取り扱った盤上のゲームは世界中に存在します。日本では「将棋」と呼ばれる盤上のゲームがあり、その勝負で生活をしているプロ棋士という人々もいます。将棋をテーマにしたマンガは多々ありますが、今回はその中でも「3月のライオン」をご紹介します。
あらすじ
幼いころに家族を事故で無くした主人公「桐山零(きりやま れい)」は、親の知人である幸田というプロ将棋の棋士に引き取られる。
孤児として負い目を感じていた桐山零は、引き取り手の幸田に認めてもらう為に、15歳でプロ棋士になった。
しかし、そんな桐山零の才能を妬む幸田の実子達との確執もあり、孤独感に耐えながらも桐山零は一人暮らしを始める。
引っ越した先で「川本あかり」「川本ひなた」「川本モモ」の三姉妹と出会い、そこから様々な人達と出会う事で桐山零は少年から大人へと成長し始める。
登場人物
1. 桐山零(きりやま れい)
本作品の主人公。
家族を事故で亡くし、自分の境遇を悲観して、15歳とは思えない冷静で大人びた考え方をする。
だが、それは孤独に耐える為、周囲の人々から孤児として見られない為の防護壁として得た考え方。
本当は歳相応に多感で、将棋で負かした相手を気遣う純粋な優しさを持つ少年。
三姉妹と接している内に、自分の周囲にいる自分を気にかけてくれている人々の存在に気づき、徐々に変わりつつある。
2. 川本あかり
母親を亡くし、父親は失踪して、妹2人の親代わりに頑張っていた川本家の長女。
昼間は祖父の和菓子屋を手伝い、夜は叔母の経営するスナックで働いている。
弱って痩せている相手を助けるのが好き、そうして拾った捨て猫が自宅に数匹居ついている。
そんなノリで、孤独に絶望していた桐山零と出会い、自宅へ呼ぶようになった。
3. 川本ひなた
川本家の次女。
姉の川本あかりと共に桐山零を気にかけている。
曲った事が嫌いで、正直で素直な少女。
物語が進むにつれて、桐山零は川本ひなたに恋心を芽生えさせてゆく。
4. 川本モモ
和菓子屋を営む祖父に溺愛されている川本家の三女。
二海堂晴信(にかいどう はるのぶ)が好き。
5. 二海堂晴信(にかいどう はるのぶ)
幼いころから桐山零と将棋の試合で対決しており、ほぼ同時期にプロへ昇格した。
そんな事もあってか、「桐山零のライバル」であり「親友」と自称しているが、桐山零の方にはそんな自覚も認識もない。
その為、桐山零の都合を考えずに自宅へ泊り込んだり、将棋の試合で不調の桐山零へ激を飛ばしたりと、人一倍桐山零を気にかけ心配する。
本人は腎臓に疾患があるらしく、体調が急変したり、入退院を繰り返している。
6. 宗谷冬司(そうや とうじ)
将棋のプロ世界で最高峰の「名人」の座に居る男性。
また、プロ将棋にある複数のタイトルも保持しており、勝負についても連戦連勝である。
それ故か、浮世離れしていて、捉えどころのない行動や言動をする場合がある。
考察
Photo by 3lion-anime.com
作者は女性の「羽海野チカ」で、女性らしい優しく、時には冷酷な視点で物語は描かれて行きます。
漫画の題材は「将棋」ですが、その描写は、「将棋」自体の描写を多く省略し、それに関わる人々の心理を抽出する描き方です。
よって、「将棋」のルールを知らなくても、ゲームの緊迫感や進行を感じる事が出来るのが他の将棋マンガとは大きく違う点です。
そして本作品は、主人公「桐山零」の成長の物語です。
プロ将棋の世界以外に、桐山零が抱えるごく普通にある悩みや葛藤、更には孤児としての孤独や他人への想い。
そんな中から心情を多く汲み取り、繊細かつ丹念にその心の変化や気持ちが描かれています。
その心理描写は、主人公の桐山零だけに留まらず、桐山零を支える「川本あかり」「川本ひなた」、そしていずれ桐山零と将棋の頂点を賭けて対決する筈の「宗谷冬司」まで、それぞれの生活やドラマが丹念に描かれて行きます。
「3月のライオン」は現在も執筆中の作品です。
日本では単行本11冊が発行され、実写映画化とアニメ化が予定されています。
「将棋」を知らなくても充分楽しめる作品ですが、このマンガを機に、日本独自の「将棋」というゲームに興味を持っていただけるとうれしいです。