日本の伝統芸能「文楽」 ― 世界中探しても他に類を見ない最高技術の人形劇
日本の人形だな、とは感じてもらえるだろうこの写真。しかし、それ以外の知識や情報を持っているだろうか?これは「文楽」という日本の伝統芸能で、非常に興味深い技術がたくさん詰まっている。
これからこの文楽について、押さえておくべき特徴などをご紹介する。もしあなたが文楽を見る場面があれば、その時に必ず役に立つことだろう。
文楽とは?
http://blog.goo.ne.jp/hosinoue
日本の伝統芸能の1つで、江戸時代初期に大阪で始まった人形浄瑠璃。歌舞伎や能同様、ユネスコ世界無形文化遺産にも登録されている。
文楽の大きな特徴は、人形劇+太夫・三味線(浄瑠璃)が一体となった総合芸術(人形浄瑠璃)であることと、それら3つが織り成す高度な表現技術。その表現レベルは世界で見ても他に類を見ないほど高いと言われている。
江戸時代では、日本の伝統芸能で世界的に最も有名であろう歌舞伎よりも人気があったそうだ。
文楽の特徴
1. 主役は「太夫」と「三味線」
左:太夫、右:三味線, http://www.kotennohi.jp/
人形に目を奪われがちになるが、実は文楽の主役とも言えるのは「太夫(だゆう)」と「三味線」である。太夫と三味線は、床(ゆか)と呼ばれる場所に位置し、素晴らしいコンビネーションで終始演目を盛り立てる。
<太夫>
床本(ゆかほん)と呼ばれる台本を読む役。この床本は原則として太夫自らによって書かれる。その内容は、単に登場人物のセリフだけでなく、心理や情景までもすべてだ。いざ演目が始まれば、たった1人の太夫のみで、登場人物全員の台詞、老若男女、喜怒哀楽、移り変わる場面、物語の背景、人の心理などすべてを表現する。観客が目をつぶっていてもすべてが伝わるレベルで語り分けるのだ。
<三味線>
演目の音響役。三味線も太夫同様、たった一音で嬉しい、悲しい、情景などすべてを表現する。特に響きや余韻を最も大切にしており、時には強く叩き付けるように弾くことで激しい感情や厳しい状況を表現するような打楽器的要素をも出す。床本は太夫のみに扱う事が許されているので、三味線は何も見ずに演目を終始通す。
2. 人形1体を3人遣い
マリオネットなど人形劇は世界中にあるものの、この1体を3人で操作する3人遣いは非常に珍しく文楽最大の特徴である。また、他の人形劇では操る人間が舞台上や下に身を隠す中、文楽は操り手の姿が見えるのも特徴だ。
この3人遣いによって、太夫・三味線同様、まるで生きた人間のようにすべてを表せる表現レベルとなっている。
主遣い:かしらと右腕を操る。
左遣い:左手を操る。小道具を出す。
足遣い:足を操る。足音を鳴らす。
左遣いと足遣いの全神経は主遣いから発せられる無言の合図(頭ず)に向けられており、それにより圧巻のコンビネーションが実現している。まさに職人芸だ。姿は基本黒子姿だが、重要な場面では主遣いのみ顔をさらすこともある。
また、その素晴らしい表現レベルを可能としているのは、複雑で緻密な人形の作りにも関係している。人形は最初から1体の完成形になっているわけではなく、かしら、鬘、手足、胴、衣装、小道具(刀、扇、傘など)など、数多くのパーツを組み合わせ、演目や役柄に最適な状態になる。同じ顔のパーツでも鬘を変えるだけでまったくの別人を演ずるのだ。また、指先、眉毛、目、舌、髪、腹なども個別に動くようになっており、人形として見ても相当なハイレベルである。
http://hiroshimakagura.at.webry.info/
彼らの心情や物語の背景が写真だけでも伝わったのではないだろうか。
3. 日本語がわからなくとも楽しめる
世話物, http://kodemari-unknown.blogspot.jp/
公家や武家社会に起こった事件などを題材にした武士主役の「時代物」や、庶民のリアルな日常を題材にした町人主役の「世話物」など、日本文化・歴史に興味がある人にとって最高の演目が並ぶ。それらは、たとえ太夫の語る日本語のわからない外国人にとってでも、三味線と人形の表現力だけで理解できるレベルなので、お友達の外国人にぜひお勧めしてもらいたい。
近い将来、多くのロボットが私達の日常に関わるようになるだろうが、人形の動きのレベルの高さゆえ、その人型ロボット開発の参考にさえされている文楽。人間の心さえ表現できるロボットが生み出される日もそう遠くないのかもしれない。